私が住宅展示場に初めて足を踏み入れたのは、妻に先立たれて約一年後、娘と二人暮らしになったころのことでした。
全国転勤をしていたのでこれまではずっと官舎住まいで、60代後半にようやく自分の家探しを始めました。
妻もなくなり娘もいずれ嫁に行く、いつか子どもたちが孫を連れて遊びに来てくれた時に過ごせる場所、なにより終の棲家をとの思いで週末を利用して娘とともに展示場周りを始めました。
各社個性的で機能的な展示場はこれまでの官舎住まいの私にとっては、時代の進化を感じさせるテーマパークのようでした。
私がこだわったポイントは4つ。一つ目はゆったりとした風呂。
二つ目は畳の部屋。三つめは薪ストーブ。四つ目は大きな本棚でした。
一方、娘はこれから歳を追う私の暮らしを考えて、手すり、段差、車いすでも使用できるトイレ等のバリアフリー住宅、火の元を気を付けるためのIH、日中の大半を過ごす広さと天井の高さにこだわった開放感のあるリビングでした。
炭の家、蔵の家、木造住宅、打ちっぱなしのコンクリート住宅などなどどの会社の展示もそれぞれに独自性があり目移りするばかりでしたが、そんな私たちの選んだ家は北海道の某住宅メーカーの家でした。
こだわりは私の寝室とリビングでした。
寝室は約20畳。洋間と畳スペース両方を一部屋に詰め込みました。これまではずっと布団で寝起きしていましたが、メーカーの方と娘の進言でベッドにすることにしました。
床は将来もしもの車いす生活や日常の掃除を考えてフローリング、その一角に腰丈まで床高にした4.5畳の畳敷きスペースを設けました。
足腰が弱くなった時や車いすになっても利用できるようになっています。
壁にはスライド式の本棚も設置しました。入り口は押戸ではなく引き戸にし、車いすになった時に自分で開放できるようになっています。
なにより娘が私の将来を思って心配してくれたのがうれしかった。
リビングはほぼ娘の監督領域で任せることにしました。天井高にしたので解放感があり気に入っています。
天井高ゆえ暖房効率を考えて天井部分にプロペラを付けました。
また、来客時に備えて、キッチンからリビング全体が見えるけれど、リビングからはキッチンが丸見えにならないように棚とシンクの位置をメーカーの方に提案してもらいました。
リビングの真ん中には薪ストーブを設置。普段はほぼ一階で生活します。
一人を除き子どもたちも独立したため部屋数はいりません。
そこで二階は子どもたちが孫を連れて帰ってきたときや妻の思い出の品を収納するスペースとしました。
流行りなのか他の展示場も天井高の家が多かったし、なにより現役子育て世代をイメージした家が大半だったように思いました。
もしも現役時代に家を建てていたら、私の寝室はもっと違ったレイアウトになっていたと思います。老齢には老齢にあった家があると感じています。